SEASON3 ACT.33
目覚めた視界に映ったものは、真っ暗闇だった。
この状態は、失神、または気絶、といえる。
ミスター・マエストロに抱えられたまでは覚えているけれど、そこから先の記憶がぱったりと、途絶えている。もしかして、わたしも催眠術をかけられていたりして! と思いつつ、身体を起こそうとしたら、身体の自由がきかない。もしかしてやっぱり、催眠術にかけられているのかも! だから身体の自由がきかないのだ! ……というよりも、だんだんと意識が覚醒するにつれ、わかってきた。
なにかが、着ぐるみと化しているわたしの身体に、ぐるぐると巻き付けられているだけ。たぶん縄かなにかだろう。
「……ああ」
それにしても、暗すぎる。まぶたを開けているはずなのに、閉じているような気がして、何度もまばたきをしながら、のろのろと床を這いつくばる。これはまるで……、マルタンさんの芋虫状態。緑色の寝袋にちんまりとおさまるマルタンさんを思い出して、にやついている場合ではない。
「うううう! くそう!」
夢だと思いたいけれど、とっても冷たくて、じめじめとした固い床の感触が、着ぐるみをとおして身体に伝わってくるので、現実なのは間違いなさそうだ。しかもなんとなく、油っぽいにおいが鼻につく。とはいえ、ともかく、わたしは生きているらしい。まあここが、魔界ではない、のだとすれば、だけれども。
それとも、わたしはすでに死んでいて、ここは本当に魔界だったりして? 思い返せば眠ったふりをしてみたり、ちょくちょく嘘をつきまくってきたから、やっぱり魔界へ堕とされたのかも! ああ、どうしよう。いましもどこからか、本物の魔界の住人(イメージはガイコツ)があらわれそうな気がしてきて、ものすごく焦る! その場合、ガイコツになんというべき? わたしには理由があって、そういうことをしてきただけで、それ以外に悪いことはしていないと訴えたら、無罪放免になって、天国行きってことにならないかな?
……ううーん、どうだろ。そんな保証はどこにもないし、そういう経験談も聞いたことがない。それはそうだ、そんなことを経験している人は、生きているはずがないから。
大変だ、本当に死んでいるような気がしてきた。だけど、死んでいるのに、縄でぐるぐるに巻かれている感覚があるのって、おかしいのではないだろうか。それに、わたしには死んでいる暇なんてないのだ。死ぬことに暇もなにもあるわけないけれど、ともかく、なんにしろ、死んでなんていられない。なぜならわたしはまだ、WJとまともなデートをしていないから、だ!
「う。……だ、大丈夫、わたしは生きているし、ここは魔界じゃない」
這うのをやめて、ひとりごちたら。
「いいえ。大丈夫ではないと思うわ。でも、あなたは生きているし、ここは魔界でもない。ある意味、魔界に近いけれど」
いきなり間近で、まったく聞き覚えのない女性の声がしたので、驚きのあまりひゃあっ! と奇声を上げてしまった。なにしろ真っ暗なので、目が闇に慣れているはずなのに、まるきりなにも見えないから、自分以外の誰かがいるだなんて、思いもよらなかったのだ。
「あ、あ、あ」
あなたは、誰? といいたいのに、きちんとした言葉にならない。すると、ものすごくどんよりとした声で、彼女がいった。
「ハーイ、暗闇パーティにようこそ。わたしはページ・ホランドよ。数日前からここに住んでいて、たぶんそのうちにあの世行き。仲間が増えて歓迎したいところだけど、あなたもわたしと、あの世行き。ここは、そういう人のためのホテルなの。素敵でしょ?」
……とっても楽しそうなパーティに、参加してしまった、みたいだ。それよりも、ページ・ホランド? それはまさに、ホランド先生の姪御さんの名前なのでは?
「も、もしかして、あなたは行方不明中のコンピュータ技師さん!?」
「あら、ご名答。わたしったら、もしかしてニュースの有名人? のわりには、誰も助けに来てくれないのよね。まあ、相手が元ヒーローじゃ、警察には無理だと、わかってはいたけれど」
もうううう! こういう時こそ無線機の出番なのに、ミスター・スネイクは屋敷にいなかったし、新作無線機も渡されていない……とまで考えてから、わたしは暗闇の中だというのに、にっこりしてしまった。そうなのだ、わたしには!
「だ、大丈夫ですよ。わたし、ここだけの話しなんですけど、発信器つけてるんです」
声をひそめていってみる。そうなの? どこに? とミス・ホランドの声が、さっきとはうって変わって、希望に満ちた声音に聞こえた。
「スニーカーの中に……」
答えてから、はっとして、ごつんと床に額を押しあてる。そうだった。着ぐるみに着替えるため、わたしのスニーカーはあの屋敷の寝室に放り出されたままなのだった。
「……す、すみません。いまのは、だったらいいなあ、という……期待?」
いっそいわないほうがマシだった。ふ、と闇の中で、息がもれる。
「……いいのよ。刹那的な夢を見られたわ。あなたがどこの誰で、どうして元ヒーローに抱えられてここに押し込められたのか、わたしにはさっぱりわからないけれど、食事は用意されるから、ひもじくはないわよ。ただ、暗い中に入れられていると、とてもダークな気分になってくるの。ほら、わかるでしょ? この世で自分を必要としてくれる人なんて、誰もいない的気分。わたしには婚約者がいるんだけれど、いまごろ彼、セクシーな同僚相手に浮気してるかも、なんて妄想まで、浮かんでくる始末よ。そのうちに、こんな目にあってるのも、あのベロニクのたくらみかも、とまで。そんなわけないんだけど」
「ベ、ベロニク?」
「わたしの婚約者に色目使ってる、女の名前よ。セクシーなの、とおっても。対するわたしは正反対タイプ。恋人は勉強、みたいな、優等生タイプなの。いまだに彼がどうして、わたしと結婚しようとしてくれているのか、よくわからないわ。きみは面白いねって、面白がってくれてるのは、わかってるんだけど」
……たしかに、ちょっと面白い人かも。だって、こんな危機的状況におかれているというのに「ハーイ。パーティへようこそ」だなんて、いってしまえるユーモアがあるからだ。ちょっとブラック的なユーモアだけれども……とか、冷静に納得している場合ではないんだってば、わたし!
「に、に」
「逃げられないわよ。ここはどこかの地下。元ヒーローの仲間があちこちにいて見張ってるの。身のこなしからして、彼らはたぶん、元特殊部隊か、傭兵、もしくは暗殺者。人は裏切ってもお金は裏切らないタイプね。もっともおそろしいタイプ」
そういえば、キャシーが誘拐された時、パンサーであるWJが、マエストロの仲間らしき人たちを、工場街で見かけたといっていたはず。品がよさそうで、スーツは高級。でも、ああいうやつらが本当は怖い、金でなんでもするからと、いっていたはずだ。
「この部屋から出る時には、目隠しをされるから、わたしにもここがどこかはわからないわ」
「目隠しをされて、どこへ行くんですか?」
ミス・ホランドが、ため息まじりに答えた。
「いつも階段を上っている感じだから、たぶん上ね。この上。ここの上には、ガーゴイル・エンジンがあるの」
「ガ?」
「時間を止める、装置の隠語よ。動かせるのはわたしだけなの。でも、あやしい行動はとれないわ。彼らがわたしの家族を、見張っているから」
う、とわたしが息をのんだところで、ぎしりときしむ音をたてて、ノックもなくドアが開き、薄暗い灯りが部屋に射し込んだ。そこには、燭台をかかげた元ヒーローが立っていた。
ろうそくのおかげで、ここが窓のない石造りの、まるで中世のお城の地下牢のような部屋だとわかる。そしてわたしは案の定、着ぐるみ姿で、燻されるハムさながら、ぐるんぐるんと縄に巻かれていた。
壁に背中をあずけて座る、ミス・ホランドの姿も見えた。クールな黒のパンツスーツ姿で、ひとつにまとめられたダークブラウンの髪。眼鏡をかけている横顔の印象は、知的な美人。でも、口角が上がっていて、どこかキュートなふんいきもある。ただし、スーツは汚れまくり、髪はぼさぼさで、そんな彼女のそばへ立ったミスター・マエストロは、燭台をかかげ、床に寝転がるイヌのハム、ではなくて、わたしを一瞥すると、にやりと笑った。
高級そうなダークグレーのスーツ、革靴はぴかぴかに輝いている。だけど、わたしには、子どもの頃にテレビで見た、ちょっとよれたコート姿のヒーローのほうが、ずうっと素敵に思える。彼はもう、若くてクールなヒーローではない。ブランドスーツを身にまとう、ギャングみたいな悪党に成り下がった、まったくの別人なのだ。
そしてわたしは、四度も殺されかけている。ううう、ううううう!
マエストロは、ミス・ホランドの前にしゃがむと、床に燭台を置いて、なにもいわずに彼女から眼鏡をはずす。ジャケットの内ポケットから、アイマスクをつかみ、ミス・ホランドの顔に装着する。
ミス・ホランドはされるがままだ。もう慣れてしまっているのだろう。そしてたぶん、ここを出て、悪だくみの協力をさせられる。
家族を見張られているうえに、武器なんてない、勉強が恋人だったユーモアあふれる女性に、それを拒否できる術なんてないのだ。
燭台を持ったマエストロが、ミス・ホランドの腕をつかんで立ち上がる。ドアを開けると、サングラスで顔を隠した、同じくスーツ姿の男がドアの外に見え、ミス・ホランドの背中を押したミスター・マエストロが、彼女の眼鏡を男に渡すと、ドアを閉じてしまった。
不気味なほどゆっくりと、肩越しに振り返ったミスター・マエストロが、わたしにいった。
「お遊びは終わりだよ。しつこいお譲さん」
べつにしつこいわけではない。ただ、なんというか、タイミングの悪い場所に、自分がいつもいるだけ。
「あ、あ、あ、あ、あなたが悪い人だって、もうみんな知ってるんだから。だって、駅であなたを見ているし、あれってニュースになって……」
いる、はずだ。なにしろまともに、新聞もテレビもきちんと見ていないので、なんともいえないけれども。
ミスター・マエストロがくすりと笑った。アイパッチをしているけれど、笑うと昔のヒーローの面影が浮かんで、わたしはさらにかなしくなる。渋くてクールな、葉巻をくわえたヒーローは、いまやギャングより最悪な存在になってしまっている。
ポケットからたばこを取り出し、片手で器用にたばこをくわえると、燭台のろうそくで火をつけ、煙を吐いた。そして、床に寝転ぶわたしの着ぐるみの背中に、ぴかぴかの革靴を押し付けると、ごろんと転がす。だからわたしは床の上で、無惨にも一回転するはめになる。
……なにか、遊ばれているような気がしてきた。
「うっ、ううううう。わ、わたし。わたしべつに、なんにも悪いことなんてしてないのに!」
意味がないのは知りつつ、訴える。くすくすと笑う元ヒーローが、床に頬をくっつけて、身動きとれずにいるわたしのそばにしゃがむ。
ミスター・マエストロは、とってもハンサムだ。始終にやけているカルロスさんとは真逆の方向で。つまり、こうして間近で見ていると、ほんの少し、眼鏡をしていないWJと、似ているふんいきがあることに、気づかされる。射るような灰色の瞳とか、黒い髪や眉とか。ただし、皮肉っぽくも冷静な笑みを浮かべると、目尻に皺が浮かぶけれど。
「きみはずいぶん、神さまに愛されているようだ。わたしから四度、無事に逃げている。もっとも、わたしが見逃した部分もあるし、カルロス・メセニを消すことが、目的だった時もあったが」
たばこの煙が、わたしの顔に吹きかけられたので、咳き込む。
発信器はないし、無線機もない。誰もわたしがどこにいるのか、わからない。いや、でもちょっと待って。催眠術をかけられていたカルロスさんの潜在意識は、この場所を見ている? そして覚えていた? だとすればいまごろボブが、この周辺を探っているはずだ。もしかすれば、会社にいなかったカルロスさんと、スーザンさんも一緒に!
「嬉しそうな顔をしているが、残念ながら、この場所は誰も知らないよ、お譲さん。カルロス・メセニが知っているのは、こことは違う場所だ」
……ああ。ああ、そうだった、んですか。かすかな希望も、この時点で即終了。
「……パンサーの小僧に邪魔をされて、またもやわくわくしてしまったものだから、駅で派手なパフォーマンスをしてしまったが、わたしとしては無益な殺しはしたくないのでね。大イベントの前に邪魔なネズミどもは、計画変更を余儀なくされる。きみを探して翻弄することに、時間を費やすだろう。きみは彼らの、時間つぶしにうってつけ。あの日死んでいただくつもりだったが、そうならなくて正解だったようだ。きみはただのお嬢さんだが、まるで台風の目。きみの周囲を観察していれば、なにが起きているのか、なぜか一目瞭然。かなり使える。ちなみに、あの屋敷にきみたちがいることは、ずっと前からわかっていた。邪魔な市警が、数日前から出入りしていることも。とはいえ」
とはいえ?
床に吸い殻を放ったマエストロは、しゃがんだまま、革靴でそれをつぶす。
「きみとページ・ホランドは、知りすぎている。どちらにしても、いよいよ海の底でハッピーエンドだ。次もラッキーとはいかない。わたしがそれを、許さないから」
ちょん、となぜか、わたしの頬に指を押して、また笑う。おそろしい。ちょっと優しいみたいなふりをして、ものすごくおっかないことを考えている感じが、最強の悪玉みたいで、だんだんと身体が震えてきた。カルロスさんの潜在意識が、知っているのは別の場所。とすればわたしに希望はない。今度こそ、最後かもしれない。誰もわたしがどこにいるのか、本当にわからないからだ。
わたしったら、ものすごくおバカさんだ! 発信器さえつけていたら、なんとかなったかもしれないのに! こうなったら、どのみち海の底的運命。ひらきなおるしかない、かもしれない。
「カ、カ、カルロスさんを、殺そうとしたでしょう!」
マエストロは、にやりとしたまま答えない。
「ダ、ダ、ダイヤグラムの広告を、逆さまにしちゃったでしょう!?」
「実験をかねたいたずら、もしくは、宣戦布告、または意思表明。騒ぎまくるマスコミのバカさ加減に、ずいぶん楽しませてもらった」
「ど、ど、ど。ヴィ、ヴィンセントを、う、うう裏切った、でしょう!?」
わたしが謎を解明したところで、それを引き継いでくれる人もいないと知りつつ、叫ぶ。マエストロは右の口角を上げて、わたしの頭を、ペットかなにかを撫でるみたいにする。
「欲に目のくらんだギャングほど、間抜けなやつらはいない」
その手がいまにも、わたしの首にかけられそうで、額に汗がにじんできた。うう、ううううう。さようならWJ! わたし、あなたのこと、できれば天国から見守ることにする。できればっていうのは、行き先は魔界かもしれないから。
「あ、あ、あ、あ、あ。あなたのことも、ここのことも、あの強盗事件のことも、なにもかも警察はわかっちゃってるのかも! ドン・ヴィンセントが、きっとしゃべっちゃってるはずだもの!」
「しゃべっているだろうな。とはいえ安心したまえ。それは、記録から抹消される」
そうだ。警察の内部には、フェスラー家とつながっている人が、いるのだった。そのフェスラー家と、マエストロにはつながりがあって、だけどフェスラーはフェスラーでも、テリー・フェスラーのほうかもしれなくて……って、ややこしい! もううう! どうしていまここに、アーサーがいないのかな!
わたしの頭を撫で続けるミスター・マエストロは、わたしの首を絞めなかった。ここで生かしておいても、なにもできないとわかっているからだろう。まあ、そのとおりだ。
「ううううううう。どどど、どうして、おっかないことするようになっちゃったの? わたし、ほんとうにあなたのファンだったのにな。それに、友達も、あなたみたいになりたいっていって、部屋にたくさん、ポスター貼ってたのに」
とっても憧れていたのだ、もしも生きていたら、アランは絶対にかなしむだろう。
わたしの頭から手を離したマエストロは、どこか楽しげだったそれまでの表情を消した。おもむろに内ポケットへ手を入れる。まさか、ピストルかもと、わたしは身構えて、ぎゅうっときつくまぶたを閉じる。
とうとう、ここで死んでしまうんだ。パパとママに手紙を残すこともできず、WJと思いきりいちゃつくこともなく、間抜けな着ぐるみ姿のまま、縄でぐるぐるに巻かれた巨大ハムみたいな恰好で、どこかも知れない地下の一室で、誰かがいつか……死体を発見するのだ。わたしの……わたしの!
う! と息を止めて固まる。けれどもなにも起きない。ゆっくりと、うっすらとまぶたを開けると、ミスター・マエストロは、なぜか黒いマジックペンを持っていた。
そして、わたしを眺め、着ぐるみの左足を持ち上げると、足の底に、ペンを走らせる。なにを描かれたのかわからないまま、ごっくんとつばを飲んだ時、ドアが開けられて、マエストロの仲間らしき男がひとり、無言のままうなずく。マエストロはペンをポケットにおさめ、燭台を手にすると部屋を出て行った。
暗闇になってしまったので、なにが描かれたのかわからなくなってしまった。暗号? それとも、呪いの魔術かも。お、おそろしい……。
ともかく。まだわたしは生きている。そしてこの場所は誰も知らない。冷たい床に顔をくっつけて、うめいていた時だ。なぜかじりじりとした電波音が、どこからともなく聞こえはじめて、自分の脳みそがいよいよ本当に、壊れてしまったのかもと顔を上げる。電波音は止まない。虫の羽音かもと、闇の中、視線を走らせていたら、やがて電波音に混じって、ざわざわとした声がもれはじめる。
『……コル? ニコル? これ、持ってる?』
どうしよう、これはいったい、どういうことなのだろう? 大変だ、わたし、発狂寸前なのかも!
『ニコル! 持ってたら応答して!』
……この声は……WJ、みたいだ。音も声も、なぜだか着ぐるみの中から発せられている、気がする。というか、事実、わたしの右膝から放たれているみたいだ。
ハム的身体を胎児のように丸める。毛並みの奥から聞こえる、くぐもった声に向かって、あー、うー、と声をかけると、あきらかにWJと思われる声が、叫んだ。
『ミルドレッド博士を、絶対離さないで!』
フランクル氏からもらったウサギのぬいぐるみに、なぜか無線機が内臓されていた、らしい? すると今度は、かすかな舌打ちが聞こえて、アーサーらしき声に変わる。
『……リックが来て、いま床にしゃがんで頭を抱えている。おい、絶対それを手放すな!』
もちろん、手放さない! ただし、手に持っていられたら、だけれども。
「わ、わたし。地下みたいなところにいて、とりあえず生きているみたいなの!」
なんとか膝に口をくっつけていう。
『おい。生きているのに、みたい、というのはなんなんだ?』
つっこまれた。
『それはともかく。父に伝えなかったリックのせいだ。ニコル、ミルドレッド博士の中に、この無線機のほかに、とあるものがおさまっている。だから絶対に、無くすんじゃないぞ、頼む』
「とある、もの?」
すると、アーサーが、ぐったりしているような声音でいった。
『……残念なことに、バックファイヤー、だ』
……ええとう。それって、キャシーのパパが、持ってるんじゃ、なかったんだっけ?