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SEASON3 ACT.22

 ボブが、真四角のケースを床に置く。スネイク兄弟のたんなる荷物かと思っていたそれは、ずっとリビングのすみっこに追いやられていたのだけれども、どうやら違ったらしい。ケースの中身は録音機材で、蓋の部分には、大人向け趣味によくある、バイクだとか船だとかの模型パーツみたいなものが、ものすごく適当にはめこまれてあった。

「……システム、ナイン?」とわたし。

「九番目に成功したからだよ、お嬢ちゃん」

 答えてくれたボブは太い指先で、てきぱきと器用にパーツを組み立てていく。その間もミスター・スネイクは、望遠鏡をのぞいたままだ。

 仕上がった模型は、バイクでも船でもなく、なんというか、鉄製の傘、だ。しかも大きさは赤ちゃんサイズ。持ち手(だろうか? わからない……)らしき部分にラインをはめ込んでから、もう一方を録音機材に差し込む。スイッチを押せば、テープがまわり、じりじりとした音を録音しはじめる。ミニ傘は、アンテナのようなもの、らしい。

「来たぞ! おい、誰が照明を消してくれ!」とミスター・スネイク。

 わたしはあわてて照明を消す。分厚いカーテンが外の光を遮るので、リビングが真っ暗闇と化した。けれども、テーブルの上の、発信器の位置をしめす画面の緑色っぽい光に、リビングが包まれる。

 ボブが鉄製のミニ傘をかかげて、リビングを飛びまわりはじめた。その姿はまるで、飛びたいのに飛べないメリー・ポピンズみたいだ。ただし、体格はまるきり違うけれど。

 わ、笑いたい……けどこらえて、わたし!

「うっ」

 両手で口を塞ぎ、発明家兄弟の行く末を見守ってみる。機材からもれるかすかな音は、依然じりじりしたままだ。やがてボブが床につんのめって、ピアノに脇腹があたり、前のめりになってうめいた時、アンテナが会話らしき声をキャッチした。

「そこだっ、動くなボブっ」

 ささやくみたいに叫んで、ミスター・スネイクが命じる。ものすごく不自然な恰好で、ボブがピタリと静止した。

 この屋敷は、たしかにきれいに内装されているけれど、誰も住んでいないことになっているので、外観は汚れまくっている。窓はほこりをかぶったままだし、立派な石壁も雨風にさらされて、泥もつきまくり、ともかく汚いのだ……って、あれ?

「あれ? あ、あなたたちの車って?」

「心配するな、森ん中だぜ、ちっちゃいの。ちょっと、あんた、こっちに来てようすを見てくれ。おれはシステムナインを調節する」

 ミスター・スネイクに指示されたので、わたしが望遠鏡をのぞくはめになった。

 若い男女の姿が、レンズに映る。男性は背が高く、なかなかハンサムだ。栗色の髪は短くととのえられていて、グレーのサマーセーターに白いボトム姿。女性もかなりな美人で、新聞のモノクロ写真よりずっときれいに見える。肩までのブロンドの髪をなびかせながら、男性と微妙な距離を保って歩いていた。白いシャツにデニムというカジュアルな恰好で、休日を楽しむお金持ちの恋人同士、みたいに映る。

 ただし、二人は恋人同士ではない。男性はテリー・フェスラーで、女性はテリーの弟の婚約者だ。しかもフェスラー家の豪邸から、こんなに離れている無人(を装っているだけだけど)の屋敷まで歩いて来るだなんて、なんだか内緒話でもはじめるつもりみたいだ。

 みたいだ……というか、あきらかにそうだろう! だって。

 ミスター・スネイクが機材をいじりはじめると、とぎれとぎれだった声がはっきりと聞こえるようになった。

『……いことって、なんなのテリー。わたしはこれから、ジェイクとドレスを買いに行かなければいけないの。こんなところまで歩いて、話したいことだなんて。おばさまは会合に出かけてしまっているし、おじさまとジェイクが戻る前に、片付けてしまいたいわ。早くしてくださらない?』

 と、ジョージアが髪をかきあげる。二人のいる場所は、この屋敷から約二十ヤード向こうで止る。オーケイ、できればそのまま、そこにいていただきたい!

 テリーがジョージアと向き合う。彼女を見下ろして、

『おじさまおばさま、か。もうお父さまお母さま、でいいんじゃないのか、ジョージア? きみはとんでもない女だよ。はじめはおれと付き合っていたくせに、おれが一族からつまはじきにされているとわかったとたんに、ジェイクに鞍替え、だからな』

 ……これは……すごいことになってきた。わたしはゴクンと、音をたててつばをのむ。

『強い者が勝つのよ、テリー。そうではなくて?』

『わかっているさ、ジョージア。だからおれは、きみに忠告しておきたいだけだ。この街でもっとも力をもっている人間が誰か、すぐにわかるはずだよ』

 ずいぶん意味深だ。ジョージアが声を上げて笑う。

『……まるでスーパーヒーローみたいな口振りね』

 レンズに見えるテリーの横顔が、にやりとしたように見えたのは、わたしの気のせい、だろうか!? と、その時だ。ブツッと声が途絶えたので肩越しに振り返れば、ボブがピアノに手をついて、ぜいぜいと深呼吸をしていた。あああ、ああああああ!

「ボブ!」とミスター・スネイク。

「い、い、息を止めてたんだよ、兄貴!」とボブ。

「ばっかやろう! 息はしてもいいんだよ!」

 レンズ越しの二人が、なにやらいい争っている。これはいままでで一番、重要と思えるやりとり、なのではないだろうか!

「わかった! ボブさん、わたしが変わりまっす!」

 というわけで、ボブと役目を変更したものの、今度はわたしがメリー・ポピンズさながら、あちこちにアンテナを向けてみたけれど、望遠鏡をのぞいたボブが、かなしげな口振りで告げた。

「……帰って、行ったよ」

 う。ああああ、あああ、そうですか。

 録音機材のスイッチを止めたミスター・スネイクは、たばこをくわえて「まあいいさ」という。なにがいいのかさっぱりわからないけれど、ミスター・スネイクはどこか満足げだ。

「……こりゃただの痴話げんかだな」

「だけど兄貴、おれはこういう場面を何度も見てきてるよ」

 ボブがいう。すごい、きっとこういった探偵みたいなことを、ボブもミスター・スネイクも、何度も経験してきているのだ。ボブが続けた。

「テリーは自分のファミリーに、復讐したいんじゃないかな? 腹違いの兄弟になにもかも取られて、面白くないって主人公は、よくあるドラマだよ」

 ん? ……主人公にドラマって、どういうこと?

「ほら、『あなたに逢うため』の前にやってたドラマがあっただろ? 『愛憎の河』っていうやつ。おばあちゃんと一緒に見てたじゃないか。まあ、あの主人公は女だったけどさ。主演はマーサ・ストランド」

 ああ、経験にもとづいた観察力、ではなくて、大人向けドラマに詳しい観察力、だったようだ……。わたしはがっかりしてうなだれる。

「おまえのほうがゴシップに詳しいからな。で? おまえはどう思うんだ、ボブ?」

「ジェイクの母親は野心家で、かなりのやり手だからね。なにしろ愛人の位置から、いっきに正妻までのぼりつめたんだ。フェスラー一族の金を握ってるのは、彼女だという噂もあるぐらいだし、所有している不動産を動かしているのも、いまや彼女。テリーの母親は育ちのいいお嬢さんで、優しかったみたいだけど、のんびりした性質が仇となって、傷心のうちに病を併発、テリーの顔もわからないってさ。いまは施設にいるらしいよ」

 知らなかった。ものすごく、ドロドロだ。

「じゃあそのお、フェスラー家の親族なんかも、テリーがほんとうの跡継ぎなのに、そっぽ向いちゃってる、っていうこと?」

 わたしが訊くと、ボブがうなずいた。

「元愛人の根回しのせいだ、かわいそうだよね。なにを企んでいるのかはわからないけど、復讐したい気持ちはあるはずだよ。なんだか仲の悪い兄弟って、せつないもんだなあ。……なあ、兄貴! おれは兄貴のこと、最高にリスペクトしてるし、愛してるよ!」

 巨体でモヒカンのボブが叫ぶ。ミスター・スネイクはにやりとしながら、煙を吐いて答えた。

「ばっかやろう、なにいってるんだ、おれもだぜ!」

 立ち上がったミスター・スネイクに抱きつくボブ。素敵な兄弟愛だ。わたしはひとりっ子だから、ちょっぴりうらやましくなる。仲良しの兄弟もいるし、ドロドロの兄弟もいる、世の中にはいろんな人がいるものだ。

 もっとも重要と思える会話を聞き逃したのは残念だけれど、かなり気になる言葉はキャッチした。わたしの脳裏にそのことがくっきりと記憶される。

 テリーはいったのだ。

『この街でもっとも力をもっている人間が誰か、すぐにわかるはずだよ』

 ……ものすごく気になる、のはわたしだけ? ともかく、録音した会話はカルロスさんたちが戻って来たら、聞かせようということに落ちついて、遅いランチをとることになり、ダイニングでパンをかじっていると、ミスター・スネイクがふいにいった。

「そういえばちっちゃいの。電話の相手は誰だったんだ?」

 げ。……そうだ、わたしにはとってもせつない難問が、残されたままだったのだ。もう、どうしてくれよう……って、流れに身をまかせるしかないのかな? いや、そんなわけはないだろう。

 学校へ行っているわけではないので、アーサーからの電話を鵜呑みにするのももやもやする。だけどサリーがWJに、激しくアプローチしているのは、昨日の宣戦布告からもあきらかだ。それに眼鏡の壊れたWJは、いまや学校で一番、セクシーな外見の持ち主になっちゃっているはず。もちろんデイビッドだってハンサムだし、オシャレだから、人気は残っているだろうけれど、女の子というのはいつでも、目新しいものに視線が向くものだ。

 WJはわたしと距離を置くために、ほかの女の子と仲良くするつもりなのかもしれない。そうやって自分の気持ちを散らす気、なのだろうか? そのうちに本気でサリーを好きなったら、今度はサリーが気になって、電球を割ってしまったりするのかも。つまり、どちらにしても、WJが誰かを好きになってしまったら、わたしとの間に起きていることの、繰り返しになってしまうのだ。

 ということは、WJに女の子だと意識させず、なおかつ仲良しの位置を、わたしが保てばいいということなのでは? 友達だけど恋人みたいで、そのうえ、ほかの女の子に意識を向けなくてもすむ相手……って、これじゃあまるで、とおっても都合のいい女の子、みたいだ。

 む、む、難しい!

 髪をわしづかむと、どうしたんだとスネイク兄弟に心配された。

 よし、わかった。いや全然わかっていないけれど、わたしはWJが好きだし、WJのことをよくわかっている(つもりだけど)。一番辛いのはWJだし、WJに罪はない。だって、WJのパワーは、WJが望んで手に入れたわけではないからだ。

 いちゃつきまくりな恋人同士には、永遠になれないかもしれないけれど、同士とか親友みたいな関係のままで、ずうっと仲良しでいればいいわけだ……って、くそう! だ・か・ら! だからこのことは、昨日から考えていたじゃないの、わたし!

「ミスターたち、異性の友達って、いる?」

 大人の意見を訊いてみよう。兄弟が顔を見合わせた。

「とくにそういうのはいねえけどなあ。意識しないって女はいるぜ?」

「ど、どういう人? その人がなにをしてても、気にならないっていう感じかな?」

「近所のダイナーで働いてるソフィアは、そういう感じだな。あいつがどこでなにをしてても気にならないけど、ポーカーの時は呼ぶぜ。ポーカーのうまい女は貴重だからな」

 ミスター・スネイクの言葉を、ボブが引き取った。

「ソフィアは美人だから、はじめはみんな気に入るんだよ。だけど、なんていうか、ちょっとずつ幻滅させられていっちゃうんだ。おならしたりするし、食べ物をこぼしたりするし、酒癖が悪いしね」

「粗雑なんだよな、あれは女じゃねえ、猿だ!」

 食べ終えた皿を持って、スネイク兄弟がダイニングを出て行った。

 ……ううーん、なるほど。わたしはお酒が飲めないけれど、悪くない意見だ。なにか間違った方向に、自ら突っ走ろうとしているように、思えなくもないけれど、今夜試してみよう。

 とにかく。WJへの対策としてわたしがすべきことは、いまみたいな距離の置き方をされたくないので、ほかの女の子と仲良しになって、同じことを繰り返さないよう(それ以前に仲良くなってほしくはない、という部分がほとんどだけれど)、わたしがストッパーの役目を果たせばいい、ということなのだ! ……って、どうしよう、ものすごく難しそうだ。しかしやってみる価値はあるだろう。

 幻滅させつつ、仲良しを保つ! とってもせつないけれど、この際わたしの気持ちはおいておいて、これはWJのためなのだ、ファイトだ、わたし!

 鼻息もあらく、お皿を持って厨房へ行き、食器を洗ってから、ふたたびダイニングで勉強をはじめる。

 わたしは誰も傷つけたくはない。アランのことがあってから、そう自分に誓ったはずだ。それが自分の大切な人ならなおさら。WJに距離を置かれようとして、グズグズしているのは簡単だけれど、仲良しでいるために、自分でできそうなことなら、すべて試してみるべきだ。それでもダメならその時は、きっとWJのいうように、わたしたちの恋人となるべき相手は、ほかにいる、ということなのだろう。

 わたしの相手はどこかにいる普通の男の子(……デイビッド、だったらどうしよう。いや、いまは忘れておこう)で、WJの相手は、WJがパワーを制御しつつも好きでいられる女の子(サリーだったらどうしよう! 最悪だけれど、それがWJのベストなら、涙を隠しつつ応援するしかない)。

 難問は山のようだ。けれども、たったひとつだけ明覚なことがある。

「……わたし、ほんとにプロムには、参加できそうもないなあ」

 まあいい。かなりがっかりな事実だけれど、WJ以外の男の子と参加するつもりは、はじめからわたしにはないので、どこか遠くからロルダー騎士の恰好のアーサーを見て、笑うだけにとどめておくことにしよう。それに、ジュリエッタ姫みたいなドレスを着たキャシーと、写真を撮るのも楽しそうだ!

 WJの普通でいられる相手が、恋人となるべき運命の相手が、もしもサリーだったら、見た目にもたしかにお似合いだ。サリーは意地悪ではないし、笑顔はキュートだし、きっと素敵な恋人同士に見えるはず。もちろん、わたしはさっき決めたこと、つまり、WJに幻滅してもらいつつ、とっても仲良しでいる、という難しい難技をこなすつもりだけれど、それって成功しちゃったら、なんとも思われない友達って位置に、引き下がることなのではないだろうか。

 これはつまり、どちらにしてもわたしは友達、WJのことを好きなら、友達でいるしかない、ということを意味するのでは……。

「あれ? どうしたんだい、お嬢ちゃん」

 いきなり声がしたので顔を上げると、ボブがにゅうっと顔を出して、わたしを見ていた。デニムのポケットからハンカチを出すと、わたしの頬にあててくれる。わかっている、わたしは泣いていたのだ。ずるずると鼻水をすすると、ボブがママみたいに、鼻にハンカチをあててくれた。ここはありがたく、鼻をかませていただこう。

「うっ。あ、ありがとう」

「そんなに勉強が難しいの?」

 そうではない。だけどわたしは笑ってしまった。

「う、ううーん、まあ。人生って、うまくいかないことだらけだなあって」

 ボブがにっこりする。

「おれのおばあちゃんは、人生はシンプルだっていうよ。それから、おれは兄貴みたいにオツムがよくないから、よく落ち込んだけど、家族を大事にして、友達をたくさんつくれっていわれたな。いつか彼らが助けてくれて、学校で一番じゃなくても、社会の一番になれるからって」

 素敵な言葉だ。

「苦しいときに苦しい顔をしていたら、悪魔がやってきて喜ぶから、顔だけでも笑え、ともよくいわれたよ。だからお嬢ちゃんも、にっこりしながら勉強したらどうかな?」

 まあ、問題はそこではないのだけれども、そういうことにしておこう。わたしはうなずく。ボブはにっこりして、わたしの鼻水つきのハンカチを持ったまま、厨房へ行く。それからわたしは夕暮れ近くまで、勉強し続けたのだった。

★  ★  ★

 かつてない高得点で、学年末試験を通過できるような予感におそわれてきた。だって、こんなに真剣に勉強したことなんて、いままで一度もないからだ。いっそこのまま、勉強で頭をいっぱいにして、ジェシカ・ルーファスみたいな黒ずくめの服を着て、生真面目生徒の仲間入りをするのも……いや、それは避けたい。と、くだらないことを考えていると、騒がしい物音とともに、ミスター・スネイクの叫び声が、いきなりリビングから聞こえてきた。あまりにも気になるので、ダイニングを出てリビングのドアを開ければ、発信器の画面をボブが必死に見入っていて、ミスター・スネイクは受話器を置いたところだった。

「ど、どうしたの?」

「ナンバー11が、港に向かってる」

 画面を指して、ミスター・スネイクがいう。

「ナンバー?」

「坊ちゃんの発信器だよ、ちっちゃいの!」

 デイビッド、のだ。

「速度は五十六マイル、車に乗ってるね」とボブ。

「マルタンさんの車、じゃないかな?」

「それはナンバー15だ。ほら、まだここにある」

 ミスター・スネイクが画面をしめすので、近寄ってみれば、高校のある場所で「15」という数字が点滅していた。ということは、マルタンさんは高校の近くにいて、デイビッドはマルタンさんの車ではない車に乗り、港に向かっている、ということになる。

「……なんだろう?」

 高校の位置で激しく点滅しているのは、ほかにひとつしかない。アーサーもキャシーも、発信器を捨てたままで、新しく取り付けてもらっていないから、これはWJの位置、ということだろうか。

 ダイヤグラムの会社がありそうな位置にはふたつ。これはスーザンさんとカルロスさんだろう。

 もしかして。もしかしてデイビッドは、キンケイドの誰かに連れ去られた、のかも? 

「カ、カ、カルロスさんは?」

「ミスター・メセニに電話しても、混線しまくってるのか、ずっと話し中のままだぜ。こうなったらダイヤグラムまで行って、ミスター・メセニを乗っけて、ナンバー11を追いかけたほうがいいな。もともとこういうことになっちまったら、そうしてくれっていわれてたんだ、行くぜ、ボブ!」

「了解だ、兄貴!」 

 電源をいったん切って、テレビ画面みたいなものを抱えたボブが、立ち上がった。

「わ、わたしは……?」

「あんたもだ、ちっちゃいの! 誰も来ないとは思うが、みんなが帰って来るまで、あんただけここに残しとけないからな! 行くぜ、ちっちゃいのも!」

 うっかり、了解だ兄貴、と叫びそうになるいきおいでいわれた。

 折りたたみ式の台車が扉の横にあったので、荷物を載せるのを手伝い、扉から顔を出して周囲をうかがう。誰もいないので、外へ出て鍵をかけ、台車を引っ張るボブを、ミスター・スネイクとともに後ろから押す。なにしろ丘陵地帯なので、のぼりはかなりキツイけれど、息切れしている場合ではない。

「む、む、無線機が使えないのって、不便だね!」

「……マジだぜ、ほんとにな!」

「伝書鳩、なんかを、飼っておくべき、だったかな!」

 ぜいぜいと息をきらしながらボブがいった。デイビッドは、誰にも気づかれずに拉致されてしまったのだろうか? 学校で点滅していた、WJの発信器の意味も気になるけれど、いま現在の問題は、わたしたちがイケてない泥棒、みたいに見えることかも……って、そんなことを考えている場合ではない!

 デイビッドが、大変……そうなのだ!

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