SEASON3 ACT.01
学校にジョセフ・キンケイドがあらわれてしまった。
ホランド先生のいうとおり、立派な紳士に見えなくもないけれど、正体を知っているわたしからすれば、無精髭にカジュアルなジャケット姿はどこへやら、すっかりギャングモードだ。
土曜日から今日までの短い間に、ジョセフの身になにが起きたかなんて知りたくもないけれど、この姿になるぐらいの出来事におそわれたことだけは想像がつく。
「……そ、それで?」とわたし。
ジョセフはたばこの煙をすうっと吐いて、
「デイビッド・キャシディを呼び出してもらおうと思ったけど、きみのほうが間抜けそうだからな。宣戦布告をしに来ただけだ」
にやりと笑い、テーブルの上の灰皿に吸い殻を押し付ける。
「というのは冗談だから安心しろよ。最後の特ダネを仕入れようと思ってね」
「特ダネ?」
ジョセフはわたしを見て、
「記者でいられなくなったし、ボスになりたがってたラリーと、ラリーにくっついてるダニーに殺されかけてるんだ、死ぬ前に自分の野望を果たしておきたいのさ。一面に特ダネ記事、おれの署名入り。悠長にかまえてる時間もない、自分の勘が正しいかどうか、きみで試しておこうかな、と」
……はあ? ジョセフのいっている意味がわからない。首を傾げるわたしに向かって、ジョセフがいった。
「パンサーはデイビッド・キャシディじゃない、違うか?」
う、え!
首を傾げたまま凍ったわたしを見て、ジョセフは満足そうに笑い、ゆったりとした足取りで近づいて来る。
「なるほど。やっぱりか」
……これってもしかして、わたしのよろしくないようすで、記者の勘がうまいぐあいに働いたことを意味する言葉だろうか……って、たぶんそうだ。
「ち、ち、違う、違う。違います、そんなことないし、パンサーはどこからどう見てもデイビッドに間違いないですから!」
墓穴をほっている気がしなくもない。ジョセフはわたしの横を通り、ドアに手をかけると振り返る。
「調べがいがありそうだな」
意味ありげににやっとし、ドアを開ける。それからふと立ち止まって、
「ヴィンセントが動きはじめてるぞ。おれはおれで手一杯だから、あいつらがなにをしようとしてるのか詳しくは知らないが、まあせいぜい」
肩越しに振り返った。
「気をつけるんだな、ニセモノパンサーの恋人、ニコル・ジェローム」
出て行った。わたしはまったく動けなくなる。どうしよう、デイビッドがすっかり、ニセモノパンサーってことになってる。それにわたしは恋人じゃないのに! いますぐジョセフを呼び止めて、むしろ本物パンサーの恋人ですと宣言したいところだけれど、そんなことをしている場合でもないし、すべきでもない。
あまりにもとうとつに訊かれたので、もっとしらばっくれるべきだったのに、図星ですといわんばかりの気配をただよわせてしまった。そのうえ、どもりまくりのわたしの釈明がさらに、火に油をそそぐ結果になったのでは……。
アーサーみたいなポーカーフェイスで、知りませんというべきだった? それとも、デイビッドみたいな逆ギレ? ……って、わたしにはどっちも無理なのよ!
「まっずい!」
叫んだと同時にベルが鳴ったので、急いでオフィスを出てエントランスを見まわしてみる。ジョセフの姿がどこにも見あたらない代わりに、WJとばったり出くわす。どうやら帰ったらしいケリーが一緒ではないので、ひとまず安心……って、そうじゃあない!
オフィスから飛び出したわたしのようすに異変を感じたのか、WJは片眉を上げて、眼鏡越しにわたしを見つめる。その表情でWJが、ジョセフを見かけていないのは一目瞭然。というよりもケリーとのおしゃべりに夢中で、意識がジョセフに向かわなかっただけ? うううう、頭がこんがらがってきた。いいたいことも訊きたいことも山ほどあるのに、WJに話しかけられない苛立がマックスとなってしまい、わたしは両手で髪をわしづかみ、その場で地団駄を踏む。
いや、ちょっと待って。
いまならデイビッドがいないので、しゃべりかけてもいいのでは?
WJに一歩近づき、口を開きかけたら、微笑んだWJが自分の口元にひとさし指をあてた。そしてロッカー脇に視線を送る。その視線をたどるとデイビッドが、腕を組んでじいっと、こちらをにらむみたいにして監視していた。
あ、そこにいたんだ……。
わたしはうなだれる。あっちもこっちも問題だらけ。いますぐ医務室に駆け込んで、胃腸薬をもらいたくなってきた。……あああああ。
「ケリー・マクダニエル、十八歳、ダウン・タウンの二十三丁目のアパートで、友人と二人暮らし。あまり治安のよろしくない場所だな。窓ふき、清掃員、ウエイトレス、スタンドの店員、かなり職業を点々としてるみたいだぞ」
放課後の図書室で、どこから情報を仕入れてきたのか、メモ用紙をひらひらさせて、アーサーがいった。
ちなみに、わたしとアーサーとキャシーはいま、オフィスの電話からそれぞれ、家族に連絡を入れたあとで、仕事で遅れているアリスさんのお迎えを待っているところだ。雑誌の取材があるというデイビッドは、WJとカルロスさんとスーザンさんと共に、すでに学校を出ていて、わたしとしてはひと息入れたいところだけれど、帰る先はストレスの豪邸。なんとなく、カルロスさんと二人きりで顔を合わせたくない。だけど帰ったらジョセフのことをいわなければいけないし、いきなり登場したケリーのことも心配で、本気で胃に穴が開きそうだ。筋肉痛および打撲も完治していないのに、ストレスがすごすぎて、ディナー中に血を吐いたらどうしよう……。
「年上なのね」とキャシー。
「みたいだな」
「一緒に暮らしている人は、友人ってことになってる恋人かも!」
そうであってほしいと願いながらいえば、メモ用紙にちらりと視線を向けて、ざっくりとアーサーがいいきる。
「同居人はメアリーとかいう名前らしいぞ。メアリーは男の名前か?」
違います。
「気にするなんておかしいわ、ニコル。WJはなんとも思ってないわよ。今日あそこへ帰ったら、わたしが訊いてみてあげる」
友情に感謝しよう。なにしろわたしは、ひとこともWJと口がきけないのだ。
ともかく。
カルロスさんやデイビッドに告げる前に、二人にもいっておくべきことがわたしにはある。
「昼休みにジョセフ・キンケイドが来たよ」
アーサーがいっきに表情を曇らせた。
「なんだって? 直接か?」
「うん。嘘の名前で、わたしの親類だとかいって、嘘ついて」
「それって、キンケイド・ファミリーのドンにされた人のこと?」
キャシーに訊かれて、わたしはうなずく。
「それで? どうしてきみに会いに来たんだ?」
尋問口調がおそろしい。
「デイビッドは、ニセモノパンサーだろうって……」
アーサーは眼鏡を指で押し上げ、正面にいるわたしを見下ろすみたいに眺めながら腕を組む。
「……きみを呼び出すとはな。もうなにもいうな。そのあとどうなったか想像はつく」
「どうなったの?」とキャシー。
「どうせきみはうろたえて、ジョセフは自分の勘に確信を得て去る。そうだろう?」
そのとおりです。
「その人って、もともとは記者だったんじゃ……」
キャシーが言葉をのみこんで、口に手をあてた直後、わたしは自分にそそがれる視線に気づいて、図書室の戸口に顔を向けた。案の定というべきか、そこには腕を組んだジェニファーがいて、じいっとわたしをにらみすえて立っていたのだ。目があった瞬間、ジェニファーがひとさし指をくいと曲げる。顔貸しな、という意味だ。
んもう、どうして? どうしてみんな、指を曲げてわたしを呼ぶわけ? やれやれと椅子から腰を上げ、ジェニファーに近づけば、いきなりわたしの腕をむんずとつかんだジェニファーが、ずんずんと廊下を歩きはじめる。あああ、刃物みたいな爪先がくいこんでるそこは、わたしの打撲ポイントです!
「ひゃあ! いてて、いてて。なに、なに、わたし、なにかした?」
「ちっさい湿布なんかほっぺたに貼っちゃって、マジで間抜けな顔。もう、あんたの存在自体が、あたしになにかしてるって感じ!」
デイビッド並みに意味不明だ。とうとうエントランスまで来てしまう。下校していく生徒の邪魔にならないよう、ロッカー脇に立ったジェニファーが、投げるみたいにしてわたしの腕を振りほどいた。
「この間っから冴えないジャズウィットが、あたしたちにくっついてて邪魔くさいったらないのよ。ただそばにいるだけなら、誰も相手にしないからべつにいーんだけど、あたしがデイビッドになんか訊くたびに、ウザいこといってさえぎるから、全然デイビッドとしゃべれないのよ。いとこだかなんだか知らないけど、あんな仲良かったわけじゃないじゃん。どーしてあんたらと一緒じゃないわけ?」
うん、それには山ほどわけがあるのだ、といえるわけない。ジェニファーは超立体的メイクの顔をわたしにぐいっと近づけて、
「あんたがジャズウィットと、前みたいにいちゃつかないから、こんなことになってるんじゃないの!」
いちゃつきたいのは山々なのよ! と叫べないのが辛い。うーん、ジェニファーのアイメイクって強烈だ。何色使ってるんだろう……なんて観察している場合でもない……と、わたしよりも背の高いジェニファーの、ぴちぴちのTシャツからあらわになった胸の谷間に、自然と視線が向いてしまう。アーサーのひらひらさせていたメモ用紙が、十分挟まりそうだ……。
「……どこ見てんのよ」
おっと、変態になっちゃうところだった。すぐさま視線をそらせば、ジェニファーが深いため息をついた。
「デイビッドはあんたを好きみたい。ただ気にしてるだけかと思ったけど、あんたのことばっか見てるし、いい加減あたしだって気づくわよ。キャサリン・ワイズが退院して、アーサーとべったりだっていうのに、気にしてないみたいな感じで、まるきりわかんない。どういうことか説明して! それともあんたら、もう付き合ってるわけ?」
そこはきっちり否定したい!
口を開きかけたら、もっとややこしいことが起きた。わたしとジェニファーのやりとりの間に、突然ジェシカ・ルーファスがあらわれてしまったのだ。
「失礼。ニコル・ジェロームと話したいの、ちょっといいかしら」とジェシカ。
「いまはあたしがしゃべってんのよ。あんたウザい。アーサー集団はどっか行って!」
ジェニファーが叫ぶ。ジェシカは眼鏡をくいっと上げて、
「ド派手集団のほうが目ざわりよ。デイビッドの成績がいいのは認めるけれど、あなたはさっさと帰って、物理のレポートを仕上げたほうがよろしいんじゃなくて?」
ここでおかしなことに、わたしなんてそっちのけで、二人の醜いいい争いがはじまってしまった。逃げるならいまだろう。というわけで、そおっと退いてきびすを返すと、ふたたびジェニファーに腕をつかまれる。ジェニファーとしてはジェシカが邪魔くさいのだ、わたしと二人きりでしゃべりたいらしく、ジェシカの肩を押しのけて、わたしを引っ張ったままとうとう、エントランスから外へ出てしまう。
「どうせあんたも帰るんでしょ? ちょっとあたしに付き合って!」
いや、迎えの車が来るまで、ひとりでうろうろしちゃいけないことになってるんです! ……って、なんて説明したらいいのだろう。
「いやいや、ちょっと待って! 迎えの……」
校舎を出たジェニファーの肩越しに、校門の前に立っている、作業服姿の小柄な人影が視界に飛び込む。キャップを手にしたまま、落ち着きなく視線を動かし、下校していく生徒たちを眺めている。と、ふいに背伸びしてこちらに顔を向けた。
ケリーだ。
ケリーはわたしとジェニファーを見つけると、ひとつに結んだ髪を揺らしながら、小走りで近づいて来て、
「あなた、ウィルと一緒にいた人よね?」
ジェニファーに訊く。わたしの腕から手を離したジェニファーは、腰に手をあてて肩をすくめ、
「仲良しなわけじゃないわよ。仲良しはこっち」
背後に立っているわたしを振り返る。わたしの正面に立ったケリーは、ヘイゼルの瞳をきらきらさせて、右手を差し出して握手を求める。握らないわけにはいかないので、おずおずとその手を握る。その指先は荒れていて、短く切った爪と指の間が、仕事のせいか汚れていた。
「ケリー・マクダニエルよ。ウィルはまだいる?」
わたしに雰囲気が似ているのは、自分でも認めよう。でも、アーサーのいうとおり、彼女のほうがどことなく大人びていて、美人だ。光の加減で色の変わるヘイゼルの眼差しは神秘的といえるし、肌も白くて、笑みを浮かべる唇もふっくらとしている。
でも、彼女のほうが美人だということよりも、わたしには握っているケリーの手のほうが、ショックだった。
……学食のスタッフの面接に落ちたらいいのにって、思うのは自由だろう。だけど、面と向かって嫌な態度をとったり、意地悪なことをいったりすることなんてできない。ネイルできらきらしているジェニファーの指とは違う、ケリーのそれには、必死になって生きてきた苦労が、しっかりと刻まれてしまっているのだ。
「WJはもう帰っちゃったの」
なんとか微笑んで答える。ケリーは少しだけがっかりした表情になる。けれどもすぐに笑って、
「うーん。わたし、ここの学食のスタッフに応募したんだけど、受かるかどうかもわからないし、一週間前からあそこのスタンドで働いていたんだけど、休憩時間オーバーでさっきクビになっちゃったの。ここがダメなら新しい仕事を探さなくちゃいけなくなったし、で、さっきウィルにこれを渡そうと思ってたんだけど、話し込んでてすっかり忘れちゃったから」
ケリーがポケットから、小さなメモ用紙を出して
「これ、ウィルに渡してもらえるかな?」
たぶん、連絡先を書いてあるのだろう。
「あんたって、ジャズウィットの知り合いなわけ?」
わたしがメモを受け取ったところで、ジェニファーが訊く。ケリーはうなずいて、
「……まあ、そうね。うん、子どものころの友達ってところ」
孤児院で、ということは告げずに答えた。
どのくらいの仲良し? あなたもWJのことが好きなの? それはどのくらい? 訊きたいけれどこわくて訊けない。
「ふーん。あの冴えないジャズウィットに、メモまで渡すなんてよっぽどじゃん」
呆れたような声音でジェニファーが苦笑する。するとケリーがくすりと笑って、軽く肩をすくめた。
「……まあ、そうね。そうかも。でも、ウィルはとっても優しいし、ほんとうは誰よりもハンサムよ。というよりも、ハンサムになっているはず、といったほうがいいかも。とにかく、彼はわたしにとって、永遠の魔法使いなの」
はあ? とジェニファー。あなたたちは知らないかもしれないけど、わたしは知っているの、といった意味が、ケリーの言葉にはこめられている。
わたしだって知っている。でも、そういいたいけれどジェニファーに追求されて面倒になるのを避けるため、ぐっとこらえて微笑むだけにとどめておく。
「二十世紀に魔法使いって。あんたって、すっごいロマンチスト? もしかして、ジャズウィットに子どものころから惚れてるとかじゃないわよね?」
ジョークに嫌みを交えたジェニファー特有のいいまわしに、ケリーはにっこりと笑って答えた。
「そうよ、ずうっと好きよ。彼以上の男の子なんて、ありえないもの」
その意見にはわたしも賛成だ……って、賛成している場合ではない。WJと付き合っているのはわたしです! と、いますぐ宣言すべきだ。だから大きく息を吸い込んで、ケリーにいおうとしたら、
「じゃあ、ウィルによろしくね! 受かったら毎日学食にいるからって、伝えておいて!」
わたしの肩をぽんと叩き、校門を出て去ってしまった。あ、いや、だからちょっと待って!
右手を伸ばしたまま校門の前で、凍っているわたしに冷たい視線がそそがれる。見ればジェニファーがじいっと、わたしを横目にして、
「……あんた知ってた?」
「あ、え?」
ジェニファーがにやりとする。
「ジャズウィットって、マジですっごいハンサムなの?」
……まずい、まずい、それだけは誰にも知られたくない、わたしだけの秘密なのに! 落ち着いてわたし、ここはしっかりと、アーサー並みなポーカーフェイスを装う場面だ、対ジョセフ的な失敗は許されない。
「いいえ。全然ハンサムじゃないです」
なんとかいいきってみる。あ、そう、とジェニファーが唇をとがらせた。どうやら納得していただけたようだ。
「つうか、ジャズウィットのことなんかどーでもいいのよ。コーラ付きでデイビッドについて、あんたに追求するつもりだったんだわ、あたし」
またわたしの腕をつかむ。生徒の溜まり場と化しているカフェに、わたしを連れて行くつもりらしい。ジェニファーが校門を出ようとするので、なんとか阻止するため、わたしも全力でその場に踏みとどまる。どうして引っ張るんだとジェニファーがいうから、外へ出たくないのだと答えれば、どうして出たくないのよと叫ばれた。
……なんだかジェニファーって、誰かさんにそっくり。その誰かさんって、ひとりしかいないわけだけれども。
意味不明な押し問答を繰り返していたら、突然、急ブレーキのかかったような音がこだました。はっとして、門から顔を出し、ほかの生徒に混じって周囲を見まわす。するといきなり、学校の敷地を囲んだブロックの角から、黒い車が飛び出し、猛スピードでストリートを突っ切って行った。
ダウンタウン行きのバス停がある方向だ。ダウンタウンから通っている生徒は、自転車で通学することが多いので、カーデナルの生徒はあまり使わない。それにダウンタウンにも高校があるので、そもそもダウンタウンから通っている生徒は、カーデナルではほとんどいないのだ。だから路地裏みたいになっている狭い通りは、いつも人通りが少なくて、わたしやアーサーやキャシーは、そこに駐車された車から降りて、今朝も学校へ来た。
誰も気にしていないようすだ。それはたんなる黒い車だし、べつに珍しくもない。でも、わたしにはわかる。猛スピードで去って行った黒い車は、キャデラックでもシボレーでもないけれど、一瞬だけ見えた後方の窓に、ソフト帽をかぶった人影が二人、いた。視力があまりよくないとはいえ、そのぐらいはうっすらと見えた。
そのうえ。
その間に挟まれるみたいにして、栗色の髪がちらりと視界に映ったのはわたしの気のせい?
「……どうしよう」
「は? なにが?」
ダウンタウン行きのバス停まで歩いて行ったのはケリーだろう。ケリーはわたしに雰囲気が似ている。髪を切る前のわたしの写真を持っているギャングは、わからないけれどクレセントに、一ファミリーしか存在しないのでは……?
キャシーが休んだ時、ボックスから電話をしようとしたわたしを、黒塗りの車に押し込んだ、オールバックのポマード男が見ていた写真は、きっとビートルズ前のわたしのはず。わたしを待ち伏せしていて、あとを追うつもりだったのか、それとも、車に押し込めて、どこかへ連れ去るつもりだったのか。
どれもいまのわたしに、わかるはずもないけれど。
「……どうしよう」
ああ、神さま、どうかわたしの勘があたりませんように! だけどわたしの直感が、こういっている。
たぶんケリーは、わたしに間違えられて、ヴィンセントに捕まったのだ。