top of page
title_mgoz2009.png

SEASON2 ACT.07

 まずいこととはつまり。

 つまりアーサーもグイード・ファミリーに、完璧に目をつけられた、ということらしかった。無理もない、市立図書館の女性用トイレで、ファミリーの下っ端みたいな男の、とってもナイーブな部分を蹴り上げて、やっつけちゃったのだから。相手にしてみたら怒り心頭な出来事だろう、なにしろ一般市民の高校生に、やられてしまったのだ。とはいえ。

「警備員が捕まえたんじゃないの?」

「残念ながら、警備員を連れて行った時にはもういなかった。人相だけは伝えておいたが」

 尾けられていることに気づいていたとアーサーがいった。あの部屋を出てからバスに乗り、学校へ向かっていつものように授業を終え、さてキャシーに会いに病院へ行こうと校門を出たあたりから、背後に妙な気配を感じたらしい。病院へ行くのは危険だと感じて、自宅へ帰るためにバス停まで歩いていた矢先、どピンクのキャデラックが目の前に停まる。

「キャデラック?」とわたし。

「マリリン・モンローの水着姿が車体に描かれていたぞ。大音量のジェームス・ブラウンを流しまくっていた。乗っていたのは三人だ。ひとりは赤いシャツに黒いスーツ、アロハシャツにリーゼントの男と、真っ青なシャツを着た長髪だ。あいつは若かった。まあ、グイード・ファミリーは流行好きの派手好きといえるだろう」

 そんな情報はいらない。

「だからなんだよ、簡潔にしゃべってくれないかな? 得意だろ」

 デイビッドが問いつめる。アーサーは肩をすくめて

「だから逃げまくったぞ。バスだと車で追いかけられるからな、地下鉄の駅まで走って、ともかく乗って、中心街のスプラウト・ホテルの目の前の駅で降りた。とはいえ、まだ尾けられているのはわかっていたから、ホテルの電話ボックスから兄に電話しようとしたら、パンサーだという声がしたから、ジャズウィットに手を振って、頼ることにしたというわけだ。それからミスター・ロドリゲスの乗った車と合流し、乗せてもらったらここへ着いてしまった。どうでもいいが、廃屋か?」

 アーサーがしゃべりながら、割れた電球の破片を踏む。

「じゃあ、キャシーには会ってないの?」

「残念ながら、ミスター・ワイズにも」

 そこで、両手に大荷物を抱えたマルタンさんが、リビングに入って来た。

「……おいおい、なんだこれは」

 カルロスさんとデイビッドの目線が絡まる。

「マルタン、尾けられてないかい?」とカルロスさん。

「たぶんな。それらしき車は一台も無かった。あとからレイとスーザンが来る。望遠鏡はスーザンに頼んだぞ」

 荷物を床に置いたマルタンさんが、頬に手をあてているわたしを見て、どうしたのかと訊く。頬から手を離せば、血がついていた。マルタンさんが荷物をまさぐり、救急箱を出す。ピアノの上にそれを置いて、バンドエイドを差し出してくれた。手を伸ばしたら、デイビッドがそれをつまみ、わたしの頬に貼ってくれる。

「ありがとう」

 かすかにひりりとした感触がある。WJが心配だ。ここを出て、どこへ行ってしまったんだろう。

 昨日パンサーはお休みだったので、力がありあまってしまっていたのかも。それで、おさえきれなくなって、こんなことになってしまったのだ。うつむいて考えていたら、眉を寄せたデイビッドに覗き込まれる。

「……たぶん、そのきょとんとしてる顔からして、わかってないみたいだからきっぱりいわせてもらう。きみに頼みたいことがあるんだけど」

「なに?」

「昨日おれがいったことは撤回させてもらうよ。嫌われるようなことはしなくてもいいってことだけど」

 デイビッドの言葉の意味が理解できない。首を傾げると、ものすごく真剣な顔をわたしに近づけて、

「いますぐWJに嫌われてもらいたいんだ」

 う。

「え?」

「やっぱりわかってない。なぜなんだ? 誰かを好きになる感情はあるのに、相手の気持ちを察知する能力が五歳児で止ってる。純粋培養具合がとってもかわいいけど、かなりイラッとさせられるよ、ほんと。あのさ、まったく気づかないわけ?」

 わたしから顔を離したデイビッドが、軽く両腕を広げて、

「この惨状」

 わたしはあらためてリビングを見まわす。

「……これはきっと、あれでしょ? 昨日パンサーにならなかったからかなって」

 どうすればいいんだ、とデイビッドが両手で顔をおおった。わたしたちの会話の内容がわかるはずもないアーサーは、ピアノのそばへ近寄って来て、困ってるふうのデイビッドが面白いらしく、

「ニコル、おれはきみに感謝するぞ。常に自信満々のデイビッド・キャシディが困惑している姿なんて、なかなか見られないからな」

「警官気取りは黙っていてくれ。おまえにいまのおれのややこしい状況なんか、絶対に理解できないだろうから!」

「痴話げんかに入る趣味はないぞ、ただ面白いだけで。ごゆっくり」

 腕を組んでにやついたアーサーは、マルタンさんとカルロスさんのそばに行く。

「で?」とわたし。

「だから」

 デイビッドは顔から手を離し、わたしの肩に両手を置いて、

「脳内の年齢を十一歳引き上げて考えるんだ。男が眠ってる女の子のまぶたにキスするなんて、状況的に挨拶じゃないだろ?」

 それはそうだ。わたしはうなずく。

「でも、偶然かなって」

「はあ? どんな偶然だよ。近づきたいって思うからするんだろ?」

 わたしは考える。いや、ほんとうは心のどこかでわかっていたのかも。むしろそうであったら嬉しいって、頭のすみっこで思っていたかも。だけどありえないってわかっていたし、妙に意識して挙動不審になりたくなくて、無意識のうちに、冷静に判断しようとつとめていたのかもしれない。

 けれども?

「……もしかして、わたし、間違ってた?」

 どうしよう。

「ああ、そうだね」

 どうしよう、とっても嬉しい。

「……どうしよう、これって、もしかして、わたしのせい?」

「……だと思うけどね。かなりまずいってことに気づけた?」

 だけど嬉しがっちゃいけないなんて! ううう。

「……いますぐゾンビになりたいかも」

 わたしは思いきりうなだれた。

「ゾンビになる前に嫌われてもらいたいんだけど?」

 よっぽどきれいな女の子なら違うかもしれないけれど、わたしみたいな女の子にとっては、好きな相手に好かれるなんて奇跡だ。たいていはすれ違ったり、うまくいかなかったりする。片思いだらけの日々に終止符が! ……まるっきりうてない。

「……だけど、わたし、昨日からちゃんとしてたんだけどな。ちゃんとっていうのは、なんていうか距離を置くとか、そういうことだけど」

「……ああ、まあね。そうだとしても、遅かったのかも。あんがい本人も無自覚かもね。どちらにしても、最悪ってことだよ」

 そう、みたいだ。

 学校で、いきなり電球が弾けるのはまずい。ほかにもいろいろなことが起きてしまうのだろうか。そのたびにWJはきっとまた、自分を責めるはず。わたしの片思い人生に終止符がうてないとしても、WJが苦しい気持ちになることのほうが絶対に嫌だ。

「う。うう。わかった。なんとかやってみる」

 わたしがうなずくと、デイビッドが深いため息をついていった。

「きみと付き合うやつは、すっごい苦労しそうな気がしてきたよ……って、おれだけど」

★ ​★​ ★

 

 男の子チームと大人チームをリビングに残し、懐中電灯をつかんだわたしは、廃屋さながらなエントランスを歩く。足もとを照らしつつ、一階を見てみたけれど誰もいない。いまにもゴーストかゾンビが出そうな雰囲気だけれど、おっかながっている場合ではない。

 ゆるやかなカーブを描く螺旋階段をのぼって、二階へ行ってみることにする。吹き抜けの天井は高く、大きな窓からうっすらと、青みがかった月明りが射し込んでいる。それでも暗さは変わらない。のろのろと階段をのぼりながら、嫌われるって、どうすればいいのだろうと考える。

 立ち止まって、ため息をつく。

 ひどいことをいう? それとも、もっと変な顔をするべき?

 嫌なやつになるのは、WJのためなのだ。いままで出会ってきた嫌なやつを思い出そうとしても、こんな時にかぎって思い出せない。むしろわたしもあなたのことが好きだと、いってしまったらどうなるのだろう。

 いってしまったら、だめかな?

 迷いながらふたたび階段をのぼる。割れた電球を避けるようにして、うつむきながらのぼり、ふと見上げた先に、WJがいた。マスクを手にして、コスチュームのままで、ぼうっとした視線を落し、階段に腰をおろしていた。懐中電灯は割れない。光が眩しいのか眉を寄せる。暗闇のほうが心にもないことをいえそうな気がして、わたしはスイッチをきった。とたんにほの暗い闇に包まれる。

 目が慣れてくれば、月明りのおかげで周囲がなんとか見まわせた。WJが座っている輪郭も、おぼろげに見えてくる。とたんにわたしは、なにをしゃべったらいいのかわからなくなって、またうつむく。

 人は誰でも、他人に好かれようとするものだ。それが、逆のことをしなければならないなんて、どうしたらいいのかわからない。しかも相手は、自分が好意を持っている人物だ。こんなこと学校じゃ教えてくれない。パパもママも教えてくれなかった。

 どうすることもできなくて、その場にたたずんでいたら

「……きみたちが」

 いきなり、WJがいう。

「きみたちが乗った車を、追いかけてる車があったんだ。誰かはわからなかったけれど、邪魔をしたよ。ここまで、妙なことはなかった?」

 声には覇気がない。寝言みたいな声音だ。WJはさっき起きたことも、わたしの傷のことも、とても気にしているに違いない。きっと自分が一番、びっくりしているはずなのだ。

「あとであの部屋に、荷物を取りにいくよ。教科書とか、着替えとか、いろいろあるからね」

「……盗まれてるかも」

「盗まないんじゃないかな。必要なものじゃないし」

「コスチュームがあるでしょ?」

 そうだね、とWJがいう。まるでどうでもいいみたいな口振りだ。

「特殊な素材なんでしょ? それって、大事なものなんじゃない。わたしやあなたの荷物よりも」

 WJは答えない。

 元気づけたい。わたしは大丈夫だし、顔の傷なんてどうってことないっていいたい。どうせわたしの顔だし、ピエロの化粧したらわかんなくなるしっていって、笑わせたい。そうすればきっと、WJはちょっと笑ってくれるはず。

 ずうっと仲良しでいたいのに、かたっぽがバランスを崩したら、WJは普通でいられなくなる。喜ばしいはずの感情が、重荷になるだなんて、どうかしてる。でもどうすることもできないのだ。

「……きみが」

 しばらくお互いに沈黙していたら、WJがいった。

「……きみが、デイビッドと話しているのが、すごく嫌なんだ」 

 わたしは答えられない。それって、完璧にやきもちだろうか。いまならそうじゃないと、むしろ思いたい。

「アーサーと仲良くしているのも気に入らない。だけど、そんなふうに思っている自分が、一番気に入らないんだ。とても混乱していて、うまくいえないし、どうしてこんなふうに思うのかもわからないよ」

「わからない?」

 自分の気持ちに気づいていないのだ。デイビッドにいわれるまで、WJの気持ちに気づけなかったわたしみたいに。

「……きみはいつも、キャシーのことをぼくにいっていたけれど。たしかにぼくは彼女の前だと、うまくしゃべれなくなって、ほんとに冴えないやつになるけど、彼女がデイビットやアーサーとしゃべっていても、ぼくは混乱しないんだ。なにかそうなることが、自然に思えるし、嫌じゃない。だけど」

 口ごもる。

「だ、けど?」

 訊ねてはいけない気がした。でも答えを聞いておきたかった。だって、これってわたしにとって、人生で最初で最後の、好きな相手からの告白ってことになるような予感がしたから。そのあとでわたしが嫌われるようなことを、告げなければならないのだとしても。

「だけど、きみがほかの男の子としゃべっているのを見ると、このごろ、すごく嫌な気分になるんだ。こんなこといままでなかったのに。きみと仲良しなやつは、ずうっとぼくだけだったからね」

 もしも死んで、わたしのたんまりついた嘘が放免されて、天国に行けるってことになったら、思いきり神さまにデコピンしてやる。スーパーヒーローが街にいることはいいことだけれど、そういう能力を持って生まれたのが、WJじゃなくたって良かったじゃないって、文句をぶうぶういってやりたくなってきちゃった!

「きみが仲良しでいてもいいのは、ぼくだけだ。たくさんおしゃべりしたり、くだらないことで笑ったり、きみの寝顔を見ていてもいいのは、ぼくだけなんだ」

 ううん、最高の瞬間だ。神さま、いまだけありがとう。でもどのみちデコピンしてやるんだから、そのときは覚悟しておいて。

「とても混乱しているんだ。こんなの、おかしいよね」

 その混乱を取り払うには、わたしはあなたのことをなんとも思っていないと、素っ気なくするしかない。

「……ほっぺたが、切れたんだよ」とわたし。

 まったくもって、どうってことない。

「……そうだよね、ごめん」

 暗くてよかった。こんなやりとり、灯りの下でできる気がしないもの。

「……血が、出たし、ちょっと痛いかも。傷が残ったら、ショックかも」

 全然大丈夫だし、気にしないで。

「……そうだよね。わからないんだ。なにか突然、自分の中のなにかが弾けたみたいな感じになって」

「……いろいろ助けてもらってるのは嬉しいけど、やっぱりときどき」

 いわなければ。いわなければ。いいたくないし思ってもないけど、いわなければ。

「おっかない。さっきのことも、びっくりしたし。なんだかあなたがちょっと、怖くなる時があるの。だって」

 全然怖くないし、一緒にまた空を飛んでほしい。

「普通じゃないから」

 普通じゃなくたって大丈夫。そんなのわたしは気にしない。あなたはわたしにとって大事な人だし、すっごくクールだ。それにわたしは、あなたをたくさん笑わせたい。

「……わ。わたしが好きなのは、デイビッドだから」

 嫌いではない。デイビッドに対して、あなたを思うほどの気持ちが、わたしにはないってだけで。

 WJはなにもいわなかった。階段から腰を上げるようすが、ぼんやりと暗がりに浮かぶ。マスクをつけて、

「……そうだよね。わかってたんだ。いろいろ、ごめん。おかしなこといって。気にしないで、忘れて。こんなこときみにいって、困らせるつもりなんかなかったのに。ぼくは最低だ」

 そんなことない。あなたは最高だし、すっごく嬉しい! といいたいのにいえない。最低なのはわたしだ。またたくさん嘘をついたし、これは完全に魔界行きかも。だったらサタンにデコピンしてやる!

「……まだ、友達でいてくれる?」

 なんて哀しげな声だろう。

 もちろんだ! という言葉をのみこんで、大きく息を吸い込んで告げた。

「……うーん、わからないな。ごめん」

 アーサー以上のすっごい棒読み。

 しばらくその場にたたずんでいたWJは、二階へ上がって行く。荷物を取りに行くという。ほんの少し間をおいてから、そのことをカルロスさんに告げてくれと、とても事務的な口調でいい残し、闇の中へ消えた。

 普通じゃないからだなんて。あなたはモンスターだといったようなものだ。

 わたしはその場にしゃがみ込む。もうどうしようもなくなって、両膝をかかえて顔を埋めた。 

 泣くことはよくある。でもこんなに涙があふれてしまって、胸が苦しくて、しゃくり上げるほど泣くことはなかった。アランが死んでしまった時と同じくらい、わたしはしゃくり上げて、子どもみたいに泣く。

 リビングから誰かが出てきた気配がした。破片を踏む足音が聞こえる。たぶんデイビッドだろう。そう思って、顔を突っ伏したまま

「だぶんぎらわれだどおぼうよ。ひどいごどいっだがら」

 鼻水をすすりながらいう。すると、頭を撫でられた。

「……意地の悪いことさせて悪かったよ。でもしかたないんだ」

「……うん、わがっでる。でぼ、だぶんぎらわれだがら、ぼう、いいでじょ?」

 デイビッドは無言だ。しばらくしてから、そばにしゃがんだデイビッドの手がゆるりと伸びて、腕になり、包まれる感触にはっとした時だ。

 いきなりものすごい勢いで、扉の開けられる音が響いた。

「うっわ、電気ないわけ、ここ?」

 しゃがれたみたいな低い女性の声には、覚えがある。涙をぬぐって階段を見下ろしても、暗がりで誰なのかわからない。わたしが持っていた懐中電灯を奪い、照らしたのはデイビッドだ。

 前髪の短い、背中まで流れる黒髪の美女がいた。黒いパンツスーツで、腰に手をあて、彫りの深い端正な顔立ちをこちらにして、

「……誰? まぶしいからそれ消しな」

 この口調、やっぱり間違いない。

 やがてリビングから、燭台を持ったカルロスさんが出て来た。おかげで周囲がほんのりと明るくなる。

「おっと。どうしてきみが?」とカルロスさん。

 長身美女の背後から、マルタンさんのように大荷物を持ったスーザンさんが、うんざりした顔で入って来る。ヒールを履いた靴で扉を蹴って、

「……最悪。ほんとうに最悪だわ」

 腰に両手を添えた美女は、ぐるんと周囲を見まわして、わたしに顔を向けた。

「……あら、知らないちびっ子発見。んなことあたしにはどーでもいいけど」

「レイはどこだい?」

 カルロスさんが訊けば、髪をばさりと振って、顔をわたしからそむける。

「豚みたいなコピーばっか上げてくるくせに、徹夜続きの激務で、持病の胃潰瘍で血を吐いたから、救急車に押し込めてやったんだよ。あの鼻クソ野郎、繊細なんだかなんなんだかどうでもいいけど、こっちだって寝てないんだ、文句いうなら辞職しなっていってやったよ。だから代わりにあたしが来たってわけ。なにすればいいの? ていうか、なにがしたいっての?」

 かなり強烈な人らしい。驚きのあまり涙も引っ込んでしまう。呆然としているカルロスさんの背後から、顔をのぞかせたマルタンさんが、あきらかにおびえている。その横に立ったアーサーは、相変わらずの無表情だ。

「んで? あんた、なんでこんなとこでのんびりしてるわけ? パンサー?」

 わたしの隣に立っているデイビッドに、ぐるんと顔を向けて見上げ、美女がいった。デイビッドがげんなりした横顔でささやく。

「……なんでアリスが」

 ああ、やっぱり。

 さらにとってもややこしいことになりそうだ。けれどもわたしは、できることならひとりになって、いろんなことを後悔しながら泣いていたい。だけどそんなことを神さま(またはサタン?)は許してくれないらしい。

 もう、もう、もう!

 どうして?

 どうしていろんなことがひっきりなしに起こってしまうの? わたしの頭の中も心も、整理すらできないまま、どんどん妙なことが起きてしまうから、ぐっちゃぐっちゃでわけがわからなくなってきた。いっそこのまま、意識不明におちいりたい。

 スーザンさんが、おっかないアリスさんの隣に立ってつぶやいた。

「解消したい悩みがあるんだけど。これ、残業代出るのよね?」

 その悩み、いまのわたしにはすっごく贅沢に思えます!

<<もどる 目次 続きを読む>>

bottom of page