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SEASON1 ACT.10

「……状況がのみこめないのはおれだけか?」とアーサー。
「……いいえ。わたしもです」とわたし。
「教えてあげよう。まずそこのお嬢さん。うろつきすぎでミスター・ヴィンセントがお怒りだ。もっとも、わたしは彼の部下ではないから、いいなりというわけではないが、たしかに邪魔だ。口封じになにをしたら最適なのか、いま考えているところでね。それでわたしはこういうアイデアを思いついたよ。きみたちは一緒に車に乗っていて、このポンコツ車のブレーキがきかず、海に真っ逆さま。かわいそうな若い恋人同士の死。そんな絵図らをね、描いているところだ」
 運転しているのはアーサーだし、助手席に座っているのはわたしだけれど、さっきと違うのは元ヒーローがうしろから、アーサーの後頭部にピストルをつきつけていて、行き先を指図していることだろう。
 どこからか飛んで来て、ボンネットに飛び降りたミスター・マエストロが、ブレーキをかけた車の後部座席に素早く乗り込んだため、いまみたいな状況におちいっているわけだ。
「……恋人同士じゃないです」
 ぼそりとつぶやくと、どうでもいいといわれた。
 憧れていたのに。大好きだったのに。いまやそのヒーローに殺されようとしてる。だけどこの状況、ものすごくおっかないけど、間違いなくチャンスじゃない。キャシーがどこにいるのか知るチャンス!
「あ、あ、あなたは。あなたは正義の味方だったじゃない」
 ぶるぶる震えながらいってみる。
「いまでもそうだよ、お嬢さん」
「え?」
 ゆっくり後方を振り返る。左目の、灰色がかった瞳と目が合う。
「なにが正義か決めるのは常識ではない。自分の価値観だ。違うかい?」
 わけがわからない。
「……それは違う。法律です。法からはずれたもの全てが悪だ」
 冷静なアーサーの発言に、元ヒーローは声を上げて笑った。
「……若いとはすばらしいね。すばらしいが単純で滑稽だ。わたしもそう考えた時期があった。だが掃いても掃いても湧いてくる虫どもを、一掃することに嫌気がさした。ではどうするか。虫どもを人にすればいい。わかるかな? わたしのいっていることが」
 さっぱりわかりません。
「……ヴィンセント・ファミリーのフィクサーとなることを選んだ、ということだな? ギャングをこの街のトップにしたてあげて、あげくは国の内部に入り込もう、という意味に受け取れるぞ」
 ほう、と片眉を上げて元ヒーロー。
「頭の良い青少年は大好きだ」
「虫は虫だ、ミスター・マエストロ」
 バックミラー越しに、アーサーがにらむと
「……きみの若さがうらやましいね」
 あざけるような口調でミスター・マエストロがにやりと笑った。
 車は中心部から離れ、街の東側に面した湾岸道路へさしかかる。前方左手に暗い倉庫街が、その向こうに、停泊する巨大な船が見える。
「スピードを上げろ」と元ヒーロー。
 アーサーの後頭部につきつけられるピストルに力がこもっているのがわかる。アーサーといえばものすごいポーカーフェイスで、おびえることもなくスピードを上げる。
「キャ、キャシーは」
「あのきれいなお嬢さんは無事だ。だが、いい気になって動き回っているニューヒーローが邪魔だったのでね。まあ久しぶりに良い運動をさせてもらったといっておこうか。もちろんすべて見ていたよ、空からね。彼が自宅へつっこむところも、きみたちがあのマンションから出てくるところも。他愛のないきみたちを葬るのは、わたしにとって簡単すぎる。しばらく遊ばせてもらったというわけだ」
 う。うううううう。
「キャ、キャ、キャシーのパパは?」
 わたしの質問には答えず、元ヒーローは不敵な笑みを浮かべて
「ロマンじゃないか。時間を止める。すべての物事が静止する。その世界で動けるのは……、たぶんわたしだけ」
「キャシーと一緒なのね!」
 元ヒーローは肩をすくめて答えない。答えないということは、たぶん、間違いなく、一緒にいるんだ。どこにいるのか問いただそうとしたとたん、
「……止めてどうするんだ?」とアーサー。
「……さあ。ひとまずややこしい虫どもの王者が誰か、仕立て上げる舞台は整う、といったところか。さて、そろそろクライマックスだ。もっとスピードを上げろ」
 アーサーがスピードを上げる。上げる。上げる……って、いや、上げ過ぎ! ぐいいいんと港へ向かって直進する車のスピードは、いまやメーターを振り切るかのごとく上がりまくってる。冷静な顔ですることとは思えない。このまま行ったら前方に見える港から海へ真っ逆さまだ。え? え? ええええ?
「ものわかりの良い青少年は大好きだ。この街からそういう若者が減ってしまうのは残念だが、いたしかたないのでね」
 車のドアに手をかけて、ミスター・マエストロがいう。切羽詰まった状況で、頭の中が真っ白なわたしにできることといえば、ばかみたいに口を開けてフリーズすることだけ。ハンドルを握るアーサーが、ちらりとミラー越しに悪党ヒーローに視線を向けた。もう海はすぐそこだ。悪党が猛スピードの車のドアを開けて、すんなり外へ飛び出す。と同時にアーサーが、思いきりハンドルをきった。ぎゅるんと車は回転し、港ギリギリで一旦停止……せずに倉庫街へ向かって突っ走る。当然ミスター・マエストロは追いかけて来る。倉庫の屋根に飛び移り、車の行く手を阻むように、目の前の地面に飛び降りると、両腕をこちらへ向けてつきだし、両手を広げた。
 ファンだったわたしには、その技がなんなのかようーく知っている。きっとWJもこれにやられたのだ。
「竜巻(トルネード)がきちゃう! すんごい風に飛ばされるよ!」
「泳げるか、ニコル・ジェローム?」
 え?
 答えてもいないのに、ぐいとわたしの腕を引っ張ったアーサーは、運転席側のドアを開けた。すぐそこは海。いままさに悪党の手の中では、ぐるんぐるんと風が巻き起こっているわけで、ありえない光景をテレビ越しではなく、リアルに目にして感動……している場合でもないのよ、わたし!
 竜巻が車を取り囲む寸前、わたしの腕を引っ張ったアーサーが、いきなり海へ飛び込んだ。道連れのわたしも当然、あちこちをぶつけながら運転席側のドアへ引きずられ、漆黒の海へ落ちた。直後、ものすごい爆音がとどろいて、口やら鼻やらへ海水が入り込んだ状態で、咳き込みながら海面へ顔を出すと。
 そこには木っ端みじんとなり、燃えさかる炎に包まれたパパの中古車が、かなしげにたたずんでいたのだった。不幸中の幸いというべきか、その炎に気づいたらしいパトカーのサイレン音が、どんどんと大きくなってくる。近づいてきている証拠だ。
 ミスター・マエストロの姿はない。わたしたちが死んだと思ったのか、それともどこか遠くからわたしたちを眺めているのか。もしくはひとまず、飛んで逃げた?
 ともかくも助かったようだ。良かった。いや。
「……弁償する」
 ずぶぬれのアーサーが、眼鏡を無くした顔を海面から出していう。その横顔はわたしのすぐ近く。というか、近すぎる! それはアーサーが、わたしの腰にしっかりと、腕を巻きつけてささえてくれているからだ。髪が額にかかっていて、眼鏡をかけてもいないので、ものすごく幼く見える。
「……なんだ」
 ぼそっと、同じくずぶぬれのわたしがささやくと、アーサーが顔を向けた。
「なんだって、なにがだ?」
「……ああ、まあ、そのお。いつも大人っぽくふるまってるから、気取ってていやな感じと思ってたけど。そうよね、あなただってしょせん、わたしとおんなじ年なんだものね」
 なんなんだ、と機嫌をそこねたのか、アーサーがぱっとわたしから離れる。
「おぼれさすぞ!」
 がしっとわたしの頭をわしづかむ。冗談のつもりなんだろうけど、そう思えない人柄をなんとかしてほしい!
「ごめん、ごめんって! 思ったこといっちゃうのよ!」
 わたしが叫ぶと、なんとアーサーが笑ったのだ。あのアーサーが。あの、スーパーエゴイストだと思っていたアーサーが。安堵したのもあるのだろう。あの状態で機転をきかせたアーサーだって、内心ビクついていたはずなのだ。
「……まあ、ありがとう」
 なんとなく嬉しくなっていってみた。なにがだ、とアーサーはいつもの口調でそっけない。
「ともかく助かったから」
「きみはありがとうとよくいうな。さっきもいっただろ」
「いったでしょ。思ったことはなんでもいっちゃうのよ。そう思ったから、いっただけ」
 アーサーが微笑んだと同時に、港に一台のパトカーが止まり、制服姿の警官が降りて来た。くすぶりまくっている中古の車と、海に浮かぶ未成年者ふたりを交互に見て、
「……信じられんな。どういうデートなんだこれは。流行っているのかね?」
 逆光するパトカーのライトのせいで、顔はよく見えないけれど、声の感じからすれば、けっこうお年の男性らしい。
「……流行ってます」
 海から上がったアーサーが、顔色も変えずにいい放つ。
「ああ。なんだ。アーサーじゃないか」
 顔見知りらしい。
 アーサーと一緒に、なんとか海から這い上がったわたしは、大きくくしゃみをする。
「いったいどうしたんだね?」
「車がいかれていたんですよ、ミスター・ロックウェル」

★ ​★​ ★

 無事でなにより、ということに落ち着いたのは、アーサーが市警部長の息子だからだろう。普通だったら間違いなく、取り調べモノのおおごとだ。
 パトカーで芸人協会のビルまで送ってもらい、ミスター・ロックウェルとはそこで別れた。
 事務所の前にはたしかに警官がひとり立っていて、やっぱりアーサーとは顔見知りらしく挨拶を交わす。わかりきったことだけれど、間違いなくアーサーの将来は警官、もうそれ以外には考えられない。
「どんな職業につくか、悩まなくてもすむっていうのは、ちょっとうらやましいな」
「なにをいってるんだ。おれは警官になるつもりはないぞ」
「えっ! そうなの?」
 意外だ。
「じゃあ、なんになりたいの?」
 アーサーは無表情で
「……役者だ」
 うん、それはやめたほうがいい。せりふがすべて棒読みになりそうだもの。
「冗談だ」
 アーサーの冗談って、顔が真面目すぎて全然笑えない。

★ ​★​ ★

 エドモンドさんの部屋に着いたとたん、ずぶぬれのわたしを見てママは失神しそうになり、アーサーがことのなりゆきをパパに語った。その間にわたしはシャワーを速攻で浴び、着替える。過呼吸になりそうなママを、パパが支える恰好となり、支えきれずにパパも身体をそらせて、
「ま、ま、まあ。ともかくも」
 ママをソファに座らせて、
「無事でしたから。まあ良しとしましょう。それに無理について行ったのはうちの娘だからね。むしろきみを危険なめにあわせてしまったようだ。きみもシャワーを浴びたらいい。着替えはわたしのを貸そう」
 ちょっとにらまれた。そのとおりだ。パパはママの横に腰掛けて、ふうっと息をついた。
「すみません。お車は弁償します。それに、おれは約束を守っていないので」
 タオルをかぶったアーサーが、頭を下げた。
「約束?」とパパ。
「お嬢さんを無事に戻しますといったことです」
 パパのつぶらな瞳がきらりと輝く。……まずい、まずい、まずい。アーサーはもともと優等生なのだ。それに警官一家の息子で、大人たちが気に入るベスト5に間違いなくランキングされるキャラなのだ。
 ソファから立ち上がったパパは、アーサーの肩に手を置くと
「……なんて立派なんだきみは。きみのような少年は、この街でとっても貴重だ、宝といってもいい。これからも娘をよろしく頼むよ」
 はあ? とアーサーが困惑する。
 もうしわけないよ、アーサー。パパもどうやらあなたを気に入っちゃったらしい。わたしも、まあ、友達になっても悪くないかもと思いはじめてはいるけれど。
 事務所に通じる一室に住んでいるエドモンドさんの部屋は、天井は高いけれどけっこう狭い。いかにも独身男性の部屋、という感じのワンルームだ。対面式のキッチンの向こうから、トレイを手にしたエドモンドさんが来る。エドモンドさんって、ふんいきがWJに似ている。……パンサーじゃない、眼鏡をかけているWJに、だけど。
 エドモンドさんがコーヒーカップをテーブルに置いたとたん、すでに誰もいない事務所の電話が鳴りはじめた。エドモンドさんはがっくりと肩を落とし、面倒くさそうに事務所へ向かって行く。
 音量を下げた状態のテレビでは、保安官シリーズが垂れ流されていた。パパは自分の旅行バックから、間抜けなストライプのパジャマを出して、これしかないなとアーサーに差し出す。ドラマの中では保安官が、なにやらサイコロみたいなものをかかげてしゃべっている。ドラマに気をとられている場合じゃないのに、
「あれはなに?」
 アーサーはがしがしとタオルで髪を拭きながら
「ああ、発信器だ」
「発信器?」
 わたしがいった時だ。なんですってと叫ぶエドモンドさんの声が響いた。ドア一枚をへだてただけの事務所なので、エドモンドさんの声がどんどんと大きくなっていって、会話の内容までしっかり聞こえてしまう。
 シャワーを借りますとアーサーが背を向けるやいなや、
「いやいやいやいや。困ったなあ。まいったなあ。人事部長のキッツの了承も得ずに、ぼくの一存では決められませんよ。なんとかなりませんか……まあ、そうですよね」
 大人はいろいろ大変らしい。それよりも気になるのはWJの様態とキャシーのことだ! 部屋の電話を借りようとした時、事務所側からドアを開けて、頭を抱えたエドモンドさんが戻って来る。
「マイク、どうしたんだね」とパパ。
「……まずいですよ。今夜予定してたパーティに、ハートランド兄妹を派遣する予定だったんです。ほら、あの、身体が切れるっていうマジックの。それがいきなり、兄のミッチの妻が産気づいて、キャンセルしたいといってきたもので。パーティーはもうはじまっている時間だし、これがコケたら信用に傷がついてしまいますよ」
「妹のサラだけじゃどうにもならんものな。ソーゾ部隊はどうだ? 四人で滑稽なことをするじゃないか。おならに火をつけたり」
「マジックが見たいらしいんですよ」
 ふうっ、とパパ。
「どこだね、その、クライアントは?」
「……ZENとかいう名前の、日本食レストランですよ。有名人で予約がいっぱいっていう……。開店一周年記念だとかで」
 それは知ってる。わたしなんかじゃ行きたくても行けない超高級レストランだ。さすがにパパも知っていたらしく、ここから近いなとあごに手をそえた。
「ギャラは最高ですよ」
 エドモンドさんのこの発言に反応したのは、失神していたはずのママだ。
「なんですって! いくらなの?」
「一万二千ドルですよ」
「大変。ほぼうちの年収じゃない、パパ!」
 ……うちってけっこう貧乏だったんだ。
 テレビではさっきのサイコロみたいなものを、保安官が身につけて、いざ悪党のアジトへ手ぶらで挑もうとしている場面だ。ああ、そういえば。
「発信器ってなんなの、アーサー?」
「あれをくっつけた人間が、どこにいるのかわかる装置だ」
「え! じゃあ、警察はキャシーのパパに、あれをつけてくれてる?」
「いや。市警の財政状態では、まだまだ高価、だそうだ。文句なら市長にいってくれ」
 ふたたびシャワーを浴びに背を向けたアーサーが、
「ZENのスポンサーはヴィンセント・ファミリーですよ、ミスター・ジェローム。オーナーはたしか、ドン・ヴィンセントの次男坊」
 パパは肩をすくめた。
「……狙われた相手の店に、おめおめ顔を出す間抜けなことはできんな。はあ、なるほど。ギャラが高価なわけだ。あきらめよう、ママ」
 ママはふたたび失神……したふりをして、がっくりとソファに身体をもたせかけた。うろうろしているのはエドモンドさんだ。
「……もう、いますぐに誰かに行ってもらわなければ困るんだ。誰か……誰か……」
 狭い部屋をうろうろしながら額に指をあてて考え込んでいる。
 いや、というか。ちょっと待って。
「……誰かがあれを」
 わたしはテレビを指して
「くっつけて、その場にあらわれたとしたらどうなるかな?」
「なにをいってるんだ、おまえは」とパパ。
「キャシーはパパと一緒にどっかにいるみたいだったのよ、パパ。そのどっか、を知ってるW……じゃなくて人は……ちょっと目覚めてないっていうかなんというか。というか、だから。ようするにその「どっか」がわかればいいのよね?」
 こうしている間にも、時間が無情に過ぎていく。
「警察も調べてる……はずだが」
 アーサーのつぶやきにも力がない。
 ローズさんはどうしてるんだろ。ああ、なんだかなにもかもがもたついて、のろのろしてるような気がしてきた。
「ああ。ああ! あれが警察にあったら良かったのに!」
「おれも同感だ、ニコル」
 おっと、びっくり。アーサーがはじめてわたしを呼び捨てにした。もう、パトカーを何台か我慢してあれを買うべきだったのだ。まあ、いったいどのくらいの値段のものなのかわからないけれど。
 ため息をついてテーブルの前に座る。たぶんハリウッド俳優のギャラぐらいしちゃうのだ。ン十万? ン百万ドル? 途方もなさすぎて想像できない。できるのはデイビッドぐらいなものだろう。
 あ。
 椅子から立ち上がる。
「いっ、いっ、いるじゃない!」
「さっきから落ち着きがなさすぎだぞ、ニコル!」
 パパが呆れた顔でいう。わたしは、いまだにシャワー室へ入ることができていないアーサーに、
「いるじゃない、いるじゃない。不可能なものをささっと買ってしまう人物が!」
「だからなんだ?」
「だから、だから。あれをつけてそこへ行くの」
「そうよ、パパ! ややこしいことはぬきにして、数時間で年収を手に入れるのよ」
 よくわからないけれど、ママの欲望とわたしの願望が一致しためでたい瞬間だ。
「落ち着いてくれ、ママもニコルも! 死ぬところだったんだぞ?」
「女は化けるのよ、パパ。化粧という名の魔法で」とママ。
「男はどうするんだ? ピエロの恰好したって、フェスラー家で見られているんだぞ」
 その時なぜか、しばし沈黙していたアーサーが、なんと、にやりと笑ったのだ。この状況でどうして笑うの?
「……エドモンドさん、でしたね? そのパーティでのエンターティナーの時間まで、あとどのくらいありますか?」
「え? ああ……」

 エドモンドさんは腕時計を見て、

「もう一時間、といったところですね。いまはたぶん、ジャズの演奏がおこなわれていて、そのあとにランドール・シスターズがたっぷり歌うらしいので」
 ゴールド・ディスク・アーティストまで出るパーティーってすごすぎる。そこにわたしの家族ってものすごく場違いな気もするけれど、ギャングの人脈の深さがいまさらながらにおそろしい。
 アーサーはいった。
「わかりました。一時間ですね? 許された時間は見積もっても四十分か……」
 また脳内でなにかを捜索、じゃなくて、今度は計算しているらしい。しばしうつむいていたアーサーは、顔を上げるといった。
「二十分で、この場所に作戦本部を設置します」
 え?

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